耐震について知ろう

2024/03/01

事例で分かる★耐震工事成功のポイント~店舗併設マンション~2

第2回:耐震工事へと動き始めたマンションが直面した「思わぬハードル」とは?

<事例>
中銀南長崎マンシオン
竣工:1971年 総戸数:58戸

個人、法人の区分所有者との長きにわたる合意形成を経て、耐震工事へと動き出した中銀南長崎マンシオン。しかし、着工に向けた施工会社の選定の段階で、思わぬハードルが立ち塞がりました。第2回は、本物件の工法や施工会社の選定過程、工事中の様子について、管理組合の理事長を務める佐藤省三さんと、本物件の耐震化に検討段階から携わったサンメイト一級建築士事務所の杉本重実さんに聞きました。

中銀南長崎マンシオンはベランダ部分などでデザインUフレーム工法を採用。斜材を使わない工法なので、「耐震工事後の住環境の変化を最小限に抑えることができた」(杉本さん)といいます

(以下、敬称略)

‐まずは今回の設計のご提案にあたって意識した点や工法の採用理由を教えてください。

杉本:耐震工法というと、学校や警察署のように鉄骨をX状に取り付けた「鉄骨ブレース工法」をイメージされる方が多いと思います。このような斜材(斜め方向に配置される構造部材)による補強は力学的に一番効率がいいです。しかし、マンションの共用部やベランダなどでこの工法を取り入れると、斜材によってこれまで使えていたスペースが使えなくなってしまう空間が生まれてしまいます。
私の考えとしては、区分所有者の方々に不利益となるような工法は採用したくなく、共用部やベランダでは斜材を使いたくないと思っていました。そこで斜材を使わない工法を検討し始めましたが、なかには耐力が出にくいものもあります。斜材を使わず、耐力もある工法を探している中で採用したのが、デザインUフレーム工法とデザインフィット工法の併用でした。

デザインフィット工法の採用箇所。粉塵や騒音を抑え、工期やコストを縮小することで、可能な限り住まう方々の日常生活に支障なく耐震工事を実現できる工法です。

佐藤:やはり、生活をしている上で不便が増えることや、景観が変わってしまうことは区分所有者としても嫌がることだと思いますが、今回採用した工法ではそのような変化が最小限で済むのはありがたいと思いましたね。実際、工事が終わった後の見た目も損なうことがないので、満足しています。

‐工法が決まり施工会社さんを選ぶ段階になった際にもご苦労があったと聞きました。

佐藤:今では建設業の人手不足や原材料費の高騰もあり、工事を引き受けてくれる施工会社を見つけることが大変でした。当初は大手の会社に見積り依頼を出しましたが、依頼を出しても辞退される場合もあり、見積りをとることにも苦労しましたね。

杉本:残念ながら、施工をお願いしようとしても、見積りも出していただけないケースが増えてきていますね。見積りをとるにしても、施工を確実に依頼することが前提条件と指定されることもあります。自社が手がけた建物は話が別ですが、居住者がいる中での施工を嫌がるゼネコンさんも多いです。他社が施工した建物をやるとなると、付随して不具合も全部片付ける必要もあるので、やりたがらないっていうのが本音でしょう。

サンメイト一級建築士事務所 代表 杉本重実さん

‐現在では耐震工事だけでなく、建築業界全体で需要に対して供給が追いつかない状態です。耐震工事も早めに動き出した方がよさそうですね。

杉本:東京都では、補助金の支給条件を令和7年度末までに耐震工事を完了した物件としていますが、都内で耐震工事が完了していない物件はまだ2000棟近くあります。今後すぐに補助金が打ち切られることはないと思いますが、今後はどのような条件になるかもわからず、もしかすると耐震工事が完了していない物件に対して市場流通上の規制がかかる可能性もあります。そうなると住まいの安全性が確保されないばかりか、資産価値としても大きな影響があるでしょう。
ぜひこうした補助金や助成金を活用し、自身の資産を守ることができるように、早めに意思決定をして耐震工事へと踏み切っていただきたいですね。

‐そのような中で、施工会社はどのように選定することができたのでしょうか?

佐藤:私としてはあまり大きい建設会社での施工は必ずしも必要条件ではなく、むしろ地域に密着して丁寧な対応をしてもらえる建設会社を依頼したいと思っていました。その中で、練馬区にある建設会社に見積りを出していただき、企業としての対応なども納得した上で決定しました。
練馬区の会社なので、本物件からも距離が近く、なにか問題があった際もすぐに駆けつけられ、交通費も抑えられること。なにより柔軟に対応してもらえる建設会社がいいと思っていましたので、見積りの段階から丁寧にやり取りをしていただいたことが選定のポイントになりました。

中銀南長崎マンシオン管理組合 理事長 佐藤省三さん

‐実際に施工が始まってからはいかがでしたか?

佐藤:工事中には定例会を開いて進捗を丁寧に説明していただき、工事も管理者の指示にしっかりとしたがって円滑に進んでいました。スケジュール通りの工期で工事も完了したので、満足しています。

‐工事中の日常生活の変化や区分所有者の方々の反応についてお聞かせください。

佐藤:もちろん平日の昼間には工事の音がありましたが、建設会社とは日曜祝日は工事を休みとして、土曜日は音の小さい作業だけにするという取り決めをしていましたので、休日にも騒音に悩まされることはありませんでしたね。
区分所有者の方々も工事が始まってからは非常に協力的で、1年ほどの工期を我慢して過ごしてくださいましたね。騒音について近隣の方々からは声をいただくことはありましたが、当の区分所有者の方は一切そういうことはありませんでした。 やはり着工までの合意形成の過程で、耐震工事の必要性をしっかりと理解してくださり、自分の資産を守るという意識が高まっていたので、工事を経て安全でよりよい住まいの姿を期待してくださっていたのだと思います。

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